第10話:「赤い糸?!」
「ねぇねぇ、ホントに全部飼うつもり?」 子犬達が満2ヶ月を過ぎた頃、私はいつも誰かにそう聞かれていた。 それは、主人であったり、モモを含めて6匹分のワクチン代に腰を抜かしそうに なった母であったり・・・。 実は、あと2匹予約があったのだが、急に「やっぱり、留守がちで可哀相だから やめておきます」とか、「今、いる犬だけで精一杯だからやめておきます」と、 立て続けに2件キャンセルがあったのだ。 2ヶ月に入ってからだったので、ちょっと困ったが、コレは縁がなかったのだ、 もしこういう状態で無理して渡しても子犬が可哀相だ・・・と、あっさりと割り 切ることにした。 ただ、あれだけ子犬を産ませることを熱望した娘までが「こんなにたくさん、ど うするん?」なんて、突き放すような事を言って私を悲しませる。 おぃおぃ、小さいてんちゃんを、引き渡した時の号泣は、ありゃ全部ウソかぃ? えっ?あたしゃ、怒るよ。 でも確かに、いろいろな出費を考えると、気が遠くなる。 こんな我が家を心配して、可愛がってくれそうな人を捜してくれた方もいたが、 相手は「男の子が欲しい」と、言う方だったりしてうまくいかない。 でも、その心遣いには本当に感謝した。 「キャバリアは人気犬種だから、本気で探せばすぐに欲しい人がみつかりますよ」 と言われたが、飼ってくれる人なら誰でもいい訳じゃない。 モモのお腹の中で、ぐにょぐにょ動いている頃からずっと見守ってきて、この手 で取り上げた子なのだ。 2ヶ月毎日見ていると、それぞれが可愛くてずっと幸せでいて欲しいから簡単に は、里子に出せない。 こうなったら出費がかさむ分は、私だけ「桃屋のごはんですよ」を舐めてでも、 そして、晩酌のビールを350mlから250mlに落としてでも、この子達を育てよう、 と決心していた。
そんなとき、ふとした事からキャバリアかパピヨンが欲しい、と言っておられる 方と知り合った。 心は、キャバリアの方に傾いておられるらしい。 「メールのやりとりで知り合った人に、あれだけ可愛いと言っていた子犬を簡単 に渡しちゃうわけ?ウッソー!信じらんなーい!モモ母さんって、2枚舌ーーー っ!軽蔑しちゃうーーーっ!」と、非難されるかもしれないが、私はこの方なら 安心して子犬を渡せそうな気がした。 28才のこのお嬢さんは、「生まれて初めて犬を飼うので、とっても不安もある し・・・でも欲しくてたまらないし・・・」と悩みつつも、子犬のいる生活を頭 の中で描いて、幸せを感じておられるようだ。 名前まで、すでに決まっているという。 メールのやり取りの中で、このお嬢さんが真剣に子犬のことを考え、大事にして くれそうな事は、ことばの端々でわかる。 私の決心は固まった。 この方に、ウチの子を育てていただこう!いや、いただきたい! それから、話しはどんどん進み、その方が住んでおられる大阪まで子犬を連れて いくことにした。 航空便なら、簡単だ。 でも、この子達は「荷物」ではない。 今まで、母親や姉妹と元気に大騒ぎしていたのにたったひとり離され、寒い箱の 中で自分に何が起きているかも知らずに、騒音の中で「物」として扱われるなん て、私にはできなかった。 それより車に揺られながらも、暖かいひざの上で新しい家族の元に行くまでの数 時間を過ごさせたかった。 今度、新しいお家に行くことになった子は、5匹の中で一番おとなしくて、家族 の誰かに甘えたくても要領が悪いがゆえに、抱っこもいつも最後になってしまう ような子だった。 素人ながらも、この子は多頭飼いの中にいるより、1匹で充分な愛情をそそいで もらった方がいいのではないか・・と思っていた。 その上、可愛がらずにはいられないほどキュートなお顔だから、きっと新しいご 家族にも愛される事間違いない。(親バカ大王で、申し訳ない)
そしてそれは、あちらの方にも言えることで「変な人が連れてきたら、どうしよ う」と、気が気じゃなかったに違いない。 待ち合わせ場所に着いた。 そこには、純情そうで可愛らしいお嬢さんと、そのお嬢さんにそっくりな優しそ うなお父さんが、待っておられた。 そして、「待ってたよ」というような、とっても暖かいまなざしで、子犬を見て おられる。 私達の不安は一瞬にしてぬぐい去られた。 「あぁ、やっぱり直感を信じて良かった!」 こういうのを、『赤い糸』って、いうんだろうな・・・・。 私の赤い糸も、出来るなら「ブラッド・ピット」あたりにつながっていて欲しか った。 今回は不思議と、前回「ちいさいてんちゃん」を手放したときのような悲しさは なかった。 心の準備ができているのと、いないのとではこうも違うモノなのか・・・。 どちらも可愛い子であることには変わりないのに・・・。 新しいお家では、好きなサッカー選手の名前から「トッティー」と、名付けられ た。 犬を飼うことを一番反対していたお母さんも「赤ちゃんがいるみたいやねー」と、 今では思いっきり可愛がって下さっているようだ。 そして、ウチではおとなしめだった「トッティー」は、今では思いっきりやんち ゃぶりを発揮して、ひとりっこを満喫している。 全てが、トッティー中心らしい。 キャバな一家がまたひとつ増えた。ブラボー! そんなトッティーも、肛門での検温は鳴いたんじゃそうな・・・。 第10話:おわり |