第11話:「モモのイライラの種」
今日も海鳴りのようなドドドッ・・・という音を響かせて、部屋の中をチビッコ
ギャング達は走り回っている。 お互い訳もなく、飛びかかったり噛みついたりしながら遊んでいるのだが、時に
は遊びを通り越して「キャバリア」の皮を着た猛獣ではないかと思うようなうな
り声をあげることもある。 背中かお腹をよく見るとファスナーが付いていて、それを下ろすと「ちわっす!」 とか言いながらハイエナでも出てきそうな迫力なのだ。 どの子かが洗濯物の山の中から、臭ってきそうな主人の靴下なんかを自慢そうに 持ってくると、当然のごとく一斉にそれに群がる。 取り合いのバトルが始まり、その壮絶な闘いぶりは、この世に生まれてたった 100日余りの生き物とは思えないくらいだ。 さすがにその様子はモモにも心配らしく、子犬達が暴れ回っている側でウロウロ しながら気をもんでいる。 時には、間に入っていったり「やめなさいって!」みたいに痛くない程度に首や 耳を噛んで諭している。 ふつうは、そこで子供達はモモにお腹を見せて「おかぁちゃん、ごめんなさい っ!」の表情を浮かべる・・・のだが・・・・。 コイツだけは、別なのだ・・・・。 可愛い子犬に向かって「コイツ」はないだろう・・・と、思っておられる方も多 いだろうがあえて、そう言わせていただく。
また、いちばんおデブさんだったことから「ディビー」とも呼ばれた。 何故だか、「はな」はいつも不満そうな顔で上目遣いに人を見る。 いや、きっと不満などないに違いない。 そういう顔なのだ。 先日のワクチンの時など、その顔で獣医さんをじっと見たものだから獣医さんは 思わず「んっふふ・・・」と笑ってしまったくらいだ。 その「はな」は、とにかく母親のモモに対して挑戦的で手加減しているモモにお 構いなしにかかっていく。 いつも攻撃しているときにはモモの耳に噛みついてぶら下がっているし、しまい には逃げ回るモモを追いかけてまで飛びついて今まで何度モモに悲鳴をあげさせ たかわからない。 そのせいか、モモの産後の抜け毛は一向に改善されない。 かなりなストレスを感じていることだろう。 本当に可哀相になる。 娘も、「はな」がしっぽを振りながら寄ってきても、「なぁんだ・・・はな か・・・」なんて言いながら適当に撫でている。 そのくせ、他の子だったら2オクターブくらい高い声で「あららら、○○ちゃん でちゅかー、よしよし・・・」と、抱っこに頬ずり。 これでは、「はな」もグレるというものだ。 ついにある日、「はな」が娘の前に座り込み何やら訴えるように2,3回吠えた後、地団駄を踏んだ。 まるで「なんで、ウチにだけ冷たいねん!」と、訴えているようだ。 深い意味などなにもないが、この子にはなんだか関西弁が似合う。 それにしても、この光景にはビックリした。 「はな」は、こんな小さいからだで、まだまだ小さい脳ミソで自分だけ不当に扱 われていることがわかっていたのだろうか? 「それは、イヌバカのモモ母さんの思い過ごしヨ、お・も・い・す・ご・し!」 そう言われても仕方ないが、確かに「はな」は悔しそうに地団駄を踏んだ。
ホントは甘えっ子のくせに上手に甘えられない「はな」は、ちょっとだけ私の顔 を舐めると一瞬上目遣いに顔を見て、サッサと他の子達の中に混じっていく。 なんとなく、いじらしい。 一時は哀れなモモをイライラから解放してやるために、犬が大好きな友人に「はな」を飼ってもらおうか・・・とも考えたが、あの地団駄踏んだ姿を思い出すと 手放せなくなった。 あんな姿を見て、子育てを放棄するわけにはいかない。 モノは言えなくても、「はな」には「はな」なりに、きっといろんな想いがあっ たに違いない。 生まれ落ちてすぐに「ディビー」だの「てんどー」「ぶちゃいくちゃん」などと、 呼ばれ続けたのだから考えてみれば、哀れなのは「はな」だったのかもしれない。 相変わらず、モモかぁさんいじめはやらかしているが、自分が「はな」という名 前であることも、「コラッ!」と、強く言われたらいけないことをしてるんだな ぁ・・・って言うこともわかりはじめた。 もう二度と「コイツ」などと、呼ばれないために「はな」もそれなりに努力して いるのかも・・・。 なぁーんちゃって、「自分がルールブック」のキャバだもん。 そんな訳ないですね、ハイ。 第11話:おわり |