第12話:「ちょっと脱線・・・。」


 「可愛い犬ですね!」と、声をかけられるとどんな人であろうと、たちまちその人は私の中では「いい人」になる。
 『でしょーっ?むちゃくちゃ可愛いでしょーっ?嬉しいこと言ってくれるねぇー!』と、喜びつつも「ありがとうございます」と、満面の笑顔ながらも冷静に答える。

 昔、Aコッカースパニエルを飼っていたときに、「まぁ、きれいな犬ですね!」と言われたが謙遜して「いえいえ、ぼろ雑巾ですっ!」と、言ってしまったことがあった。
 「しまった!」と思ったがもう遅い。
 頭の中では「モップみたいな犬でしょう?」と、言いたかったのに、ポロッと口から出た言葉は「ぼろ雑巾」だった。
 あぁ、なんてイヤな飼い主なんだろう!
せっかく誉めて下さった奥様の顔はたちまちこわばった笑顔に変わった。(涙)

 そのコッカーを飼っていた頃は、2週間に1度はお風呂に入れ、2ヶ月に1回は素人ながらも自分でトリミングをやっていた。
 私は、キレイに仕上がったその子を眺めるのが大好きだったし、トリミングとシャンプーという大仕事もちっと苦にならなかった。
 本当は自信作なのに、「ぼろ雑巾」とは・・・。トホホ・・・。


お母さんに「ぼろ雑巾」扱い
されたメリー A.コッカー
ホントはこんなに美犬
 
 それから私は愛犬が誉められると素直に喜ぶことにした。
 そんな私が人に言われて最もイヤな言葉が「血統書付きでしょ?」と、「高いんでしょ?」だ。
 そう言う人には、「いえ、いえ、雑種なんですよ。」と言っておく。
 半信半疑な視線を感じながらも、力強くそう言う。
 そう言うことを聞いてくる人の関心は、この犬ではなく別の所にあるからだ。

 私の悪いところは、犬を介してその人の善し悪しを決めてしまうところだ。
 (悪いところは他にもあるが・・・)
 先日も、学習教材のことでやってきたセールスがウチのキャバ軍団を見て「あっ、ボク、犬苦手なんですっ!」と言ったばっかりに、かなり素っ気なく断られるという不幸な出来事があった。
 そりゃ、ヘラヘラしたキャバが大小合わせて5匹もドドッと出てくれば、ひるむ気持ちもわからないでもない。

 でも、「うわぁーーーっ!かっわいいなぁー。」となど言って撫でてくれたりしたら、同じ断るにしても、やんわりと気分良く帰れるように断ってあげたのに・・・。
 そう!どっちにしても断るのであーる。

 「かあさん、今のはちょっと可哀相よ、ちょっとカッコ良かったのにっ!」と、娘はヤツの肩を持つ。それも動機が不純だ。
 私は、娘がいつか主婦になった時、お世辞上手な訪問販売員の思う壺にはまらないか、ちょっと不安になった。

 考えてみれば、犬嫌いには冷たく接するとは勝手な考えだ。
 ずいぶん前に、友人の一人が「○○さんの子供がねー、自分がなめてたズルズルのあめ玉を私の口に押し込もうとしてねー、困ったのよー。○○さんは“せっかくあげるって言ってるんだから食べてやって”って言うし・・・。
 でも、さすがにヨダレでズルズルのアメはネェ・・・。」と、話してくれたことがあった。それと同じようなモノなのだ。

 でも・・・でもっ!
 頭の中ではわかっていても、やはり犬嫌いより犬好きの人の方が好きだ。
 モモのペロペロ攻撃を拒否しない人は尚更良い。
 ウチは商売をしているので、いろいろ問屋、メーカーの人が出入りするがやはりモモを可愛がってくれる人がいるメーカーのものを積極的に売ってしまう。

 私の人生は犬中心なんだなぁ・・・。

 どんな犬でも可愛くてたまらない私なのに一度だけ犬に噛まれたことがあった。
 その子は、柴犬系の野良犬だが、近所の人がエサを与えていた。
 その日もエサをもらって食べていたが通りがかった私はそのエサの中にヤキイモがあるのを見た。
 「ぷぷっ!や、やきいもっ?」
 なんだか、おかしくてジッと見てしまったのだ。
 これがいけなかった・・・。
 その子は私にエサを横取りされると思ったらしい。

 それから何事もないように私はその場を去ったが「チャッチャッチャッ・・・」っと、私の後をついてくる犬の足音がした。
 「おや、私が犬好きと知って甘えに来たな?」と、思って振り返った瞬間、その子は私のたっぷりお肉のついたふくらはぎに噛みついた。
 怖かった。
 「この私が犬に噛まれるなんて!」そういう、ショックもあった。

 走って逃げるとよけいについてくるので早足で歩いて、なんとかその子から逃れることが出来た。
 きっと、その子には生きている中でご飯だけが楽しみだったのだろう。
 それを奪われると思ったら、こうするしかなかったのかもしれない。

 それからしばらくして、その子を見かけなくなった。
 聞けば何度か人に噛みついて、とうとう保健所に連れて行かれたらしい。
 何とも言えないモヤモヤした気持ちになった。
 この子も愛情たっぷりに育ったら、キャバみたいに甘え上手になって、幸せに暮らせたかもしれない。
 エサだけやるくらいなら、飼ってやって欲しかった。

 この子は、「可愛いね!」って、言われたことがあったのかな。
 やさしく撫でられたことはあったのかな。
 ベタベタに可愛がられている我が家の陽気なキャバ軍団を見ながら、ふとこの子の事を思い出した。

 今度生まれてくるときは、キャバリアになって生まれておいで!
 なにがなんだかわからないけど楽しそうだよ!

                  第12話:おわり

感想はモモ母さんまたはつぼねまで、よろしくっ!


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