第5話:「素敵なクリスマスプレゼント」

 家に帰って、いそいそと買ってきたほ乳瓶を開けてみた。
 7匹も生まれたら、きっとこれのお世話になるに違いない。 子犬、子猫用のほ乳瓶の乳首は、先がかなり細い。 後で思ったのだが、ネコにはこれでいいが、子犬には細すぎるのでかえって人間 用のほ乳瓶がいいような気がした。

  「クリスマス頃ですね、生まれるのは・・・」
 自信ありげに笑みを浮かべながら、そう言われた先生の言葉が頭から離れない。 この頃だったら、助手となる娘も冬休みに入るから、私としてもありがたい。 23日には、ソファーをガリガリと引っ掻いたり、部屋の隅っこを匂ってみた り・・・と、素人が見ても「そろそろね・・・」と、思わせる仕草があった。

 もう一度、私は準備しておいた「消毒済みのはさみ」「へその緒を縛るたこ糸」 体重を計る為の「料理用のはかり」「赤ちゃんの体を拭くタオルたくさん」「手 の消毒スプレー」「新聞紙」を確認した。記録を取るメモ帳も忘れてはならない。

 へその緒をはさみで切るマネなんぞをしてみる・・・。
 「あぁ、ドキドキするねぇ・・・」娘と顔を見合わせる。


お父さんの力作
 日付が変わり、24日になった。やっぱり、「お産は夜中が多い」というのは本当 だ。 モモは相変わらずウロウロして落ち着かない。
  「モモ、ここで産むんよ」と、主人が精魂込めて作っておいた巣箱を見せると、 なんとあっさり素直にそこに入った。
 「エライ、えらいぞっ!モモっ!」 モモはもう、かなり辛くなってきているようだ。 誉められたってちっとも嬉しくはないようで「フゥー」とも、「ハァー」ともつ かないうめき声を出している。
 「よしよし、ガンバレ!」と、腰のあたりを撫でてやる。

 私は緊張のため、指先がしびれてピリピリしてきた。

  「キャン!キャン!キャィーン!」
  あぁ、どうしよう!どうしよう!1匹目が産まれかけている。 私は一瞬、めまいがした。
 隣で、娘は泣いている。
 今まで、聞いたことがないような、激しい鳴き声にモモが可哀相になり一瞬私は 出産させたことを後悔した。
 でも、今更そんなこと言ったって、元には戻せないのだ。 もう一回、モモがいきむと、子犬が生まれ落ちた。
 「よしっ!」
 マニュアル通り、へその緒を切るために縛ろうとしたら、なんと、もう切れてい た!
 「切れる」と言うより、「ちぎれていた」という感じだ。

 早く、子犬を膜を破って出してやらなければ!! 焦れば焦るほど、うまく行かない。 「造り物のイクラ」の膜のように、破れにくいのである。 でも、なんとか震える手で取りだした。子犬の大きさは手の平サイズ。


生まれたての天使たち
 「トライカラーだぁー」
 よく見ると、こんなに小さいのに一人前にあの茶色い「眉毛」がある! 「やっぱり、モモに産んでもらってよかったぁー」
 勝手なモノよね。さっきまで、後悔してたくせに。

 そして、「しばらくしたら出てくる」と、学習していた胎盤もすぐに出てきた。 レバーのようなモノを想像していたが、結構大きく、黒みがかった緑色・・・と いう感じで、お世辞にも、「おいしそう」とは言えない代物だ。 それを、教えもしないのにモモは食べた。
 1,2個は食べさせてもいいそうなので、そのまま食べさせた。
 巣箱は羊水や胎盤ですごく汚れる。新聞紙はもっと沢山あった方がよかった。

 それから、乳を吸わせようとモモに近づけたが、子犬を舐めるばかりでやろうと しない。
 その上、子犬のへその緒が少しでも残っているのが気に入らないらしく、根元 までガジガジ噛み切ろうとしている。 「ダメよ!モモ!出べそになるよ!」必死で、止めようとするが完璧主義なのか すっかりへその緒を噛み切ってしまった。あーあ・・・。

 その後も、約1時間おきに6匹、予定通り合計7匹の子犬を産んだ。 みんなよく太って、元気にキュウキュウ言っている。 やっぱり、犬は安産ねー。 でも、犬が喋れれば「あんたら、犬に聞いたんかぃっ!私らだって辛いわぃっ!」 って、言うだろうな。

 娘は、子犬の体重と身体の特徴を書き留めていた。 お産は、やはり二人で世話をした方が精神的にも能率面でも絶対いい。 子犬達は小さい子で、150グラム、大きい子で230グラムあった。 そして、後の子はみんなブレンハイムだった。
 1匹でもモモに似た子がいてよかった。

 モモは7匹産み終え、安心したように乳を与えている。 それにしても、子犬達は目も見えないのにどうして乳がわかるのだろう? 吸うこ とを知っているのだろう?
 生命って、すごいなぁ・・・。

 野良犬や野良猫達は、これだけのことを全部自分でするんだな・・・・と、思う と、野良ちゃん達がとてもけなげに思えてきた。 飼い犬であろうがなかろうが、命には変わりはない・・・。

 「お姫様とお呼び!」みたいだったモモなのに、上出来のお産だった。 私はモモに「ご苦労さん」と、生卵の黄身を舐めさせた。  美味しそうに、食べ終わると、モモは安心したようにグゥグゥ大イビキをかきな がら眠った。

 娘は、「私は絶対子供を産まんよ・・・じゃ・・・寝る」と言い残し自分の部屋 に帰って行った。
 少々、強烈な体験だったろうが、これからの人生で絶対にプラスになってくれる と信じている。

 主人が仕事に出かけた後、「じゃ、私もちょっくら・・・」と、眠ることにした。 30才過ぎると、徹夜はこたえる。

 でも、この時、眠らなければ、じっと子犬達を見つめてさえいれば、あんなに悲 しい想いをせずにすんだのに、その時の私は幸せな気分で吸い込まれるように眠 ってしまった。

           第5話:おわり

感想はモモ母さんまたはつぼねまで、よろしくっ!


[天使がやってきた TOP]

BACK HOME NEXT