第7話:「他人の関係?」

 待ちに待った喜びと、言いようのない悲しみを一度に体験したクリスマスイヴ、 頑張ったご褒美にモモにホンの少しケーキをあげようと、巣箱がある2階に上が ってみた。
 今までのモモなら、バッタンバッタンしっぽを振って私に笑顔を見せていた。 それ以前に私から離れて自分だけ2階にいるなんて事がなかった。

 なのに!なのにーーっ!!
 その時のモモは「なに?なんか用?」みたいな顔をしてチラッと私を見るだけだ った。   その目は、今までのように「母さんなしでは生きていけないワン!」というよう な甘えた目じゃなく、明らかに冷たく他人を見る目だ。
  いや、今までのモモは他人にでさえも「あなたこそ、私の本当のご主人様!」とで も言いたげに近寄っていっていたのに、今の私はそれ以下だ。

 「モモォー、どうしたのぉ?ケーキだよん!ケ・エ・キ!」 と、見せると「それだけ置いて、とっとと出て行きなっ!」なんて言い出しそう な雰囲気だ。

 再びあのセリフが頭に浮かぶ。
 「そりゃないぜ、セニョリータ・・・」

必死に介助したというのに、そんな仕打ちはひどいわ、モモ! 余りの豹変振りに、呆然としている私にはお構いなしで、モモはペロッと、ケー キを食べ、ついでに天使達を、「カワイや、カワイや」という風に舐めている。

  じっくり見ると、天使達の大きさは本当にまちまちで、よく出そうなお乳には案 の定大きい子が吸い付いている。 そして、要領の悪い子・・・というのはどこにもいるもので、他の子が吸い尽く したお乳ばかり吸っている子もいる。

 なんと言っても6匹いれば、お乳を飲むのも戦いだ。 「フンフンフン・・・」と、必死に出そうなお乳を嗅覚だけを頼りに探している子が哀れになり、私はいい場所を陣取っている大きい子を引き離し、替わりに小 さい子を持っていった。
  それにしても、子犬がお乳に吸い付く力は強いものだ。 引き離した時の、「チュパッ!」の音の大きいこと・・・。ちょっぴり笑える。

 それからモモは、モモが寝ている間に子犬達を圧死させないように・・・と、巣箱の内側に取り付けてある「手すり」のようなものに片足をかけ、お乳を吸いや すいように「んぐっ!」と、勢いをつけてお腹を上向けた。 何から何まで、自分で考えてやっていることだ。 げに、「母性」とは凄いものだと、感心する。

 モモの私に対する態度は悲しかったが、もし、これが私ばかり追いかけて子供達 の世話をしなかったら、それこそ大変だと諦めてそっとドアを閉めた。

 冬休みに入った娘は、暇さえあれば子犬を眺めている。 「受験生じゃなくてよかった!」と、本人も言っていたが、まったくだ。 子犬のせいで試験に落ちたとあっては、シャレにならない。 自分たちのせいにされる子犬の方もいい迷惑だ。
「その、犬好きを生かして、獣医さんか、トリマーを目指したら?」 と、言ったら
「何かあったら、飼い主に文句言われるからイヤ!」と、現実的な 答えが返ってきた。

 その娘は、私や主人には決して見せないような優しい笑顔で1匹1匹子犬を抱い てはティッシュでオシッコをさせている。 モモが側で「私の子よ!何するんじゃい!」と、言いたげだがお構いなしに、む んずと、子犬を掴み黙々と子犬の股間を刺激している。

 気分がいいのか子犬は、オシッコするとき“バカボンのパパ”にそっくりな顔で 必ずあくびをする。 ウンチは、子供の頃やった「ヘビ花火」のように「うにゅにゅにゅにゅ・・・」 と、遠慮なく出てくる。 それが誤って手についても、ちっとも汚く感じないから不思議だ。

 しかし、あの「ヘビ花火」というのは、今考えるとなんの面白みもない花火だっ たなぁ・・・。ネズミ花火はエキサイティングだったが・・・。

 産後間もなく、「ぎゅぅーーー・・ぎゅるぎゅる・・・」 モモのお腹に何か別の生き物でもいるのかと思うような、音がした。 それからモモは、急いで外へと出たがった。

 そう・・・。ピーヒャラ、ピーヒャラ・・・下痢が始まったのだ。 胎盤を食べたり、ウンチを舐めているせいだろうと、気にしなかったが、あまり に頻繁な上、数日続いたのでさすがに可哀相になり、獣医さんに相談したところ、
  「母乳に影響しない下痢止めを出しましょう」
と、処方してくださった。

 それが、よく効きアッという間に下痢は止まった。 あぁ、早く相談すればよかった。 素人考えは一番マズイ。おかしい!と、思ったら、先ずは本職に聞いてみるものだ。

 お正月休みが来る前に、モモと子犬達を獣医さんに連れていって診てもらった。 念のために、モモには産後起きやすい「低カルシウム症」を防ぐため、カルシウ ムを注射してもらった。 それから、モモも順調に回復し、子犬達も元気に大きくなって毎日走り回ってじ ゃれ合っている。

  やんちゃ盛りでトイレトレーニングも、なかなか効果がない。

  「もう、困ったちゃんでちゅねー

 雑巾片手に子犬の後を追いかけ、せっせ、せっせと拭き掃除・・・。 その様子を、じっとモモは見ていたのかもしれない。

  ある日、子犬にしてはあまりに大きすぎる水たまりを発見した。
 そう、犯人はモモ!!

  「ぎぇぇぇぇぇっ!赤ちゃん返りっ?!」

          第7話:おわり

感想はモモ母さんまたはつぼねまで、よろしくっ!


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