第8話:「モモの心の叫び」
自分の水たまりを私に見つかっても、モモにはちっとも悪びれた様子がない。
「えっへっへー。やっちゃいましたがな、奥さーん・・・」 みたいに、へらへらしている。 私の怒りは倍増した、と、同時に情けなかった。 朝から、何度も排泄のために庭へ出していたのに、しないまま帰ってきたのだ。 わざとしたとしか思えない。 「どんなに産後で辛くても、頑張って外へ出てたじゃない!なのにこれは何なの よぉぉぉっ!!!!」 思わず、モモのお尻をピシッ!っと、叩いてしまった。 叩いた私の手が痛かったので、モモも相当痛かったと思う。 「おー、こわい、こわい、くわばらくわばら・・・」と、背中がせせら笑ってい たようだった。 その態度に、私の『怒りのメーター』は、針を振り切ってしまった。 「モモぉぉぉぉぉっ!」 ただならぬ様子に、やっと自分がいけないことをしたことが解ったようだ。 目をむいて逃げ回った。 子犬達は遊んでもらっていると勘違いして、一緒に走っている。 「ぷっ」と、笑いそうになったが、ここで笑ってしまうとモモがいい気になる・・ と思って我慢した。 粗相は、その日だけでは終わらなかった。 今度は少量ながら大きい方と、セットだ。 私は愕然とした。 私と目が合うと、モモは危険を察して慌てて逃げていった。 「逃がしてなるものかっ!」 我を忘れた私は、いつの間にやら履いていた健康スリッパを、モモを目がけて投 げつけていた。(私を「鬼」と呼んで下さってもよくってよ・・・みなさま。) どうしても、許せなかった。 その直後、モモは子犬達を凄い形相で追いかけ始めた。 その様子は「お前達のせいだっ!」とでも、言っているようだった。 子犬達は、怯えて部屋のすみっこに逃げ込んでいる。 私は、ハッ・・・とした。 きっとモモはストレスが溜まっていたのだ。 今まで愛情を独り占めし、ちやほやされていたのに、自分の産んだ子供とはいえ 今では家の者の愛情あふれる視線は常に子犬に注がれている。 子犬なら「よしよし」と、許してもらえることが自分だったらひどい目に遭う。 私は、自分がしてしまったひどい仕打ちを悔い、モモを抱きしめた。 「辛かったね、ごめんね、ごめんね・・」 安心したように、モモは私の肩に甘えた。 愛おしさと同時にモモをひとりで排泄に出さずに、一緒にそばにいてやらなかっ たことを反省した。 自分が外に出ている間に私が子犬達を可愛がっているのではないかと、気が気じ ゃなかったに違いない。 母親になっても、モモは私の子供だったのだ。 ひどい仕打ちを本当に悔いた。 それから私は、何でもモモを優先するように気をつけた。
次の日・・・。 夕食の支度をしていると、昨日と同じようにモモが子供達を追いかけ回している。 「げっ!また!?」 鍋のふたを持ったまま、慌てて見に行った。 ・・・まてよ、よく見ると、モモはしっぽを振っている。 右へ左へと軽いフットワークで、子犬達を挑発している。 バスケットの選手だったらいい仕事をしそうだ。 ・・・遊んでやっていたのだ・・・。 それからも、毎日日課のように同じ動作で遊んでやっている。 子犬達も慣れたようで、我先にとじゃれついている。 私の猛烈な反省は、猛烈な勘違いから始まったが、きっとその時モモにはかなり なストレスがあったことは、まず間違いないだろう。 親子だから・・・と、優先順位を間違えたことは最大の失敗だった。 今でも、時々粗相をしでかすが、どういうつもりでやっているのか、モモの気持 ちがわかる方がいたら是非教えてプリーズ。 第8話:おわり |